のぼり、その掲げたるは
のぼりにはいろいろあります。
多くの日本人が人生の比較的早い段階で出会うのは鯉のぼりかもしれません。
あるいはお店の店頭ではためいている宣伝用のものでしょうか。
でも、それらをのぼりと意識しているかというとどうでしょう。
むしろ映像のなか、たとえば戦国時代を描いたドラマなどで、戦闘シーンに両軍ではためいているあれもまた、まぎれもないものです。
ただ現実に目にしているという感覚にはなりにくいです。
私が初めてそれを認識したのは、相撲見物に行ったときのことです。
行った先は国技館でしたから、場所は両国駅です。
駅を出てじきに目に飛び込んできたのが力士たちの名が記された巨大なのぼりです。
色もとりどりで、嫌が応にも、さあこれからこの力士たちの戦いを目の当たりにするのだぞという気分が高まってくるのです。
絶大な効果をもたらす旗の群れ、いや何より、ああこれが、と静かな感動を覚えました。
その後、またそれに出会った、と実感した体験があります。
ひいきの役者の芝居見物に出かけたときです。
観劇は何度かしていたので劇場には慣れていました。
しかし、その老舗の劇場は一味ちがっていました。
建物の前に出演する役者ひとりひとりの名前のそれが立っていました。
見上げるような大きなのぼりです。
ファンもうれしいにはちがいないけれど、役者はどんなに誇り高い気持ちでいるだろうかと思いました。
またしてものぼりがもたらす高揚感に気付かされたわけです。